はじめに
システムトレードは、コンピュータのアルゴリズムを使って自動的に取引を行う方法です。この分野では、膨大なデータを分析して予測を立てる技術が必要となります。
その中で注目されるのが「ランダムフォレスト」という機械学習の手法です。本記事では、ランダムフォレストがシステムトレードでどのように使われるのかを、初心者の方にも理解しやすい形で解説します。
ランダムフォレストとは?
ランダムフォレストは、データをもとに「判断の木(決定木)」をたくさん作り、それらの結果をまとめて最終的な予測を行う機械学習の手法です。名前の通り、「ランダム(無作為)」と「フォレスト(森)」という2つの要素から成り立っています。
ランダムフォレストの基本
決定木とは何か?
ランダムフォレストは、たくさんの「決定木」を作り、それらを組み合わせることで、データを予測するための方法です。たとえば、「明日の株価が上がるか下がるか」を予測するような問題で役立ちます。この方法は、1本の決定木に頼るよりも、たくさんの木の意見をまとめることで、より正確な答えを出せるのが特徴です。
ランダムフォレストを使うときには、データをランダムに選んで学習させます。これにより、モデルが偏った考え方をしないようにすることができます。また、たくさんの決定木を使うことで、予測がブレにくくなります。
今回の記事では、ランダムフォレストの仕組みや実際の使い方を紹介しました。Pythonというプログラミング言語を使って、データを準備し、モデルを作り、予測の精度を確かめる方法を説明しました。この記事を参考に、ぜひ小さなデータを使って、自分でも試してみてください。
決定木の基本構造
決定木の構造は次の3つの要素で成り立っています。
- ルートノード: 最初の質問が出される部分です。たとえば、「今日の株価は移動平均を上回っていますか?」がここに当たります。
- 枝(ブランチ): 質問に対する「Yes」または「No」の答えが分かれる道筋です。
- リーフノード: 最終的な結果を示す部分です。たとえば、「価格が上がる」「価格が下がる」がリーフノードになります。
決定木の利点と欠点
決定木は、データの中から直感的にわかりやすい「ルール」を見つけるのに適しています。1つの質問の結果が次の質問にどうつながるかを視覚的に理解できるため、どのようにして予測が導き出されたかを説明しやすいのも特徴です。
ただし、決定木には弱点もあります。1本の木だけだと、特定のデータに偏りやすく、新しいデータに対応する力が弱くなりがちです。これを補うために登場するのが「ランダムフォレスト」です。ランダムフォレストは、複数の決定木を組み合わせることで、1本の木だけでは得られない強みを発揮します。
ランダムにデータを選ぶ
ランダムフォレストでは、トレーニングデータから無作為にデータの一部を選び、それぞれ異なるデータセットを使って複数の決定木を作ります。
ランダムにサンプルを選ぶ(ブートストラップ法)
ランダムフォレストは、データの一部を無作為に選ぶ「ブートストラップサンプリング(データの一部を重複を許可してランダムに抽出する手法)」を行います。
この手法を具体的に説明すると次のようになります:
- データセットとして「100件」のトレーニングデータがある場合、それを1つの決定木が学習する際に無作為に選びます。このとき、同じデータが複数回選ばれる(重複)ことが許されています。
- 例えば、元のデータセットが次のように番号付けされた100件だったとします:
[1, 2, 3, 4, ..., 100]
このデータをランダムにサンプリングすると、次のように「重複」を含むデータセットが生成されます:
[5, 12, 5, 7, 3, 45, 5, 12, 67, ...]
1つの決定木には、約63%程度の異なるデータが含まれ、残りは重複しています(これは確率的にそうなることが証明されています)。
これはブートストラップサンプリング」を使っているためです。ブートストラップサンプリングでは、元のデータからランダムにサンプルを取り出し、同じデータが複数回選ばれることもあります。この方法により、各決定木に使われるデータが少しずつ異なることになります。
各決定木が異なるデータセットを使って学習することで、モデル全体に多様性が生まれます。つまり、全ての決定木が同じデータを使うのではなく、少しずつ異なるデータを使うことで、全体として偏りの少ない、より強力なモデルを作り上げることができるのです。
ランダムに特徴量を選ぶ
また、決定木を構築する際には、すべての特徴量(データの項目)を使うのではなく、一部の特徴量をランダムに選びます。これを「ランダムな特徴選択」と言います。
例
データに「終値」「出来高」「移動平均」「ボリンジャーバンド」といった10個の特徴量がある場合、ある決定木ではそのうち3つだけが使用されることがあります。例えば、ある木は「終値」「移動平均」「ボリンジャーバンド」を使って学習し、別の木は「出来高」「移動平均」「終値」を使って学習するかもしれません。
これにより、特定の特徴量に依存しすぎることを避け、バランスの取れた学習が可能になります。たとえば、特定の特徴量が非常に強く予測に影響を与える場合でも、他の決定木は異なる特徴を使って学習するため、全体として偏りの少ない予測ができます。
過剰適合を防ぐ
過剰適合とは、モデルがトレーニングデータに過剰にフィットしてしまい、新しいデータに対して正確な予測ができなくなる現象を指します。例えば、「このデータでは価格が必ず上昇する」といった特定のパターンに頼りすぎると、違う状況に直面したときに正しく対応できなくなります。
ランダムフォレストでは、ランダムにデータや特徴量を選ぶことで、過剰適合のリスクを大幅に減らします。複数の決定木がそれぞれ独立したデータセットを使って学習するため、どれか1つの決定木が過剰適合しても、全体の予測には大きな影響を与えません。
1本の決定木では捉えきれない情報を引き出す
1本の決定木では、データの一部の特徴に偏る可能性があります。しかし、ランダムフォレストでは多数の決定木を使い、それぞれが異なる視点でデータを分析します。その結果、1本の木だけでは見逃してしまう情報をモデル全体で補うことができます。
例えば、株価の予測において、ある決定木は「出来高が多いと価格が上昇する」と予測し、別の決定木は「移動平均を超えると価格が上昇する」と判断するかもしれません。これらの異なる判断を組み合わせることで、より精度の高い予測が可能になります。
システムトレードのためのランダムフォレスト入門
システムトレードは、コンピュータプログラムを使って取引を行う手法で、データに基づいた予測が重要な役割を果たします。この分野で注目されるのが、機械学習の「ランダムフォレスト」という手法です。本記事では、この手法がどのようにシステムトレードに応用できるかをわかりやすく説明していきます。
ランダムフォレストとは?
ランダムフォレストは、複数の「決定木」を作り、それらを組み合わせてデータを分析・予測する手法です。決定木は、データを「Yes」や「No」のような2つの選択肢で分類しながら答えを導き出す仕組みです。ランダムフォレストは、この決定木をたくさん作り、それらの結果を組み合わせることで、より精度の高い予測を可能にします。
なぜデータをランダムに選ぶのか?
ランダムフォレストでは、データや特徴量(項目)を無作為に選びながら複数の決定木を作成します。この「ランダム性」は、モデル全体の精度を高めるために欠かせない重要な要素です。
具体的には、データをランダムに選ぶことで、以下の3つの重要な効果を得られます。
データの偏りを減らし、多様性を確保する
同じデータを使い続けると、モデルはそのデータに偏ってしまい、未知のデータに対する予測が難しくなります。これを防ぐために、ランダムフォレストでは「ブートストラップサンプリング」という方法を使います。
この方法では、元のデータセットから無作為にデータを選び、同じデータを何度も選ぶこと(重複)を許可します。この手法を使うと、それぞれの決定木が異なるデータセットで学習することになり、多様性のあるモデルが構築できます。これにより、偏りを減らし、未知のデータにも対応できるようになります。
例えば、データセットに100件のデータがあるとします。この中から無作為に選ぶと、1つの決定木が学習するデータは約63%が異なるデータで、残りが重複したデータになります。この重複を許すことで、モデル全体に独自の視点を加えることができるのです。
過剰適合を防ぐ
過剰適合とは、モデルがトレーニングデータに過剰にフィットしてしまい、新しいデータに対して正確な予測ができなくなる現象を指します。例えば、「このデータでは価格が必ず上昇する」といった特定のパターンに頼りすぎると、違う状況に直面したときに正しく対応できなくなります。
ランダムフォレストでは、ランダムにデータや特徴量を選ぶことで、過剰適合のリスクを大幅に減らします。複数の決定木がそれぞれ独立したデータセットを使って学習するため、どれか1つの決定木が過剰適合しても、全体の予測には大きな影響を与えません。
1本の決定木では捉えきれない情報を引き出す
1本の決定木では、データの一部の特徴に偏る可能性があります。しかし、ランダムフォレストでは多数の決定木を使い、それぞれが異なる視点でデータを分析します。その結果、1本の木だけでは見逃してしまう情報をモデル全体で補うことができます。
例えば、株価の予測において、ある決定木は「出来高が多いと価格が上昇する」と予測し、別の決定木は「移動平均を超えると価格が上昇する」と判断するかもしれません。これらの異なる判断を組み合わせることで、より精度の高い予測が可能になります。
ランダムフォレストをPythonで実装
以下は、Pythonを使ってランダムフォレストを実装する例です。これを通じて、具体的なコードの動作を理解しましょう。
# 必要なライブラリをインポート
import pandas as pd # データ操作を行うためのライブラリ
from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier # ランダムフォレストモデルを使うためのクラス
from sklearn.model_selection import train_test_split # データを訓練用とテスト用に分けるための関数
from sklearn.metrics import accuracy_score # モデルの予測精度を確認するための関数
# サンプルデータを用意
data = {
'close': [100, 102, 101, 103, 105], # 終値
'volume': [200, 210, 205, 220, 230], # 出来高
'sma_5': [101, 102, 102, 103, 104], # 短期移動平均(5日)
'sma_20': [100, 100, 100, 101, 101], # 長期移動平均(20日)
'target': [1, 1, 0, 1, 1] # ターゲット(1は上昇、0は下降を意味する)
}
# データフレームに変換
df = pd.DataFrame(data)
# 特徴量(入力データ)とターゲット(予測対象)に分ける
X = df[['close', 'volume', 'sma_5', 'sma_20']] # 特徴量
y = df['target'] # ターゲット
# データを訓練用(80%)とテスト用(20%)に分割
X_train, X_test, y_train, y_test = train_test_split(
X, y, test_size=0.2, random_state=42
) # random_stateは結果を再現可能にするための設定
# ランダムフォレストモデルを作成
model = RandomForestClassifier(n_estimators=100, random_state=42) # 決定木の数を100に設定
# モデルをトレーニングデータで学習させる
model.fit(X_train, y_train)
# テストデータで予測を行う
y_pred = model.predict(X_test)
# 予測精度を確認
print("予測精度:", accuracy_score(y_test, y_pred)) # 正解率を表示
サンプルコード解説
以下は、サンプルコードの各部分について、使われている関数名、変数名、メソッド名を具体的に説明しながら解説します。
1. ライブラリのインポート
import pandas as pd
from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier
from sklearn.model_selection import train_test_split
from sklearn.metrics import accuracy_score
この部分では、Pythonの機械学習やデータ操作で必要なライブラリをインポートしています。
- import pandas as pd: これは、
pandas
ライブラリを使うための記述です。as pd
と書くことで、以降はpandas
をpd
という短い名前で呼び出せるようになります。pandasは表形式のデータを操作するためのツールで、エクセルのようにデータを扱うことができます。 - from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier: これは、
scikit-learn
という機械学習ライブラリから、ランダムフォレストを実現するクラスであるRandomForestClassifier
をインポートしています。このクラスを使ってモデルを作ります。 - from sklearn.model_selection import train_test_split: データを訓練用とテスト用に分けるための関数
train_test_split
をインポートしています。 - from sklearn.metrics import accuracy_score: モデルがどれだけ正確に予測できたかを計算する関数
accuracy_score
をインポートしています。
2. サンプルデータの準備
data = {
'close': [100, 102, 101, 103, 105],
'volume': [200, 210, 205, 220, 230],
'sma_5': [101, 102, 102, 103, 104],
'sma_20': [100, 100, 100, 101, 101],
'target': [1, 1, 0, 1, 1]
}
df = pd.DataFrame(data)
ここでは、辞書型データ構造を使ってサンプルデータを作成しています。Pythonの辞書は{キー: 値}
の形式でデータを格納します。例えば、キー’close’には株価の終値データがリスト形式で格納されています。
- ‘close’: 株価の終値です。数値のリストで、過去5日分のデータを記録しています。
- ‘volume’: 取引量(出来高)を表すデータです。
- ‘sma_5’: 5日間の移動平均値です。
- ‘sma_20’: 20日間の移動平均値です。
- ‘target’: 予測対象のデータで、価格が上昇したか下降したかを1(上昇)または0(下降)で表しています。
このデータをpandasのDataFrame
に変換するために、pd.DataFrame(data)
という記述を使います。DataFrameは表形式のデータを扱うための基本的な構造で、行と列で構成されます。
3. データの分割
X = df[['close', 'volume', 'sma_5', 'sma_20']]
y = df['target']
X_train, X_test, y_train, y_test = train_test_split(X, y, test_size=0.2, random_state=42)
ここでは、データを特徴量(予測に使うデータ)とターゲット(予測対象)に分けています。
X
: 特徴量を格納する変数で、DataFrame
から必要な列('close'
,'volume'
,'sma_5'
,'sma_20'
)だけを抽出しています。これは、モデルが予測を行うために必要なデータです。y
: ターゲットデータを格納する変数で、予測する対象である’target’列を抽出しています。
train_test_split(X, y, test_size=0.2, random_state=42)を使って、データを訓練用とテスト用に分けています。
- test_size=0.2: データの20%をテスト用に使うことを指定しています。
- random_state=42: データの分割を再現可能にするための設定です。この数値を指定すると、毎回同じようにデータが分割されます。
分割後の変数:
4. モデルの作成と学習
model = RandomForestClassifier(n_estimators=100, random_state=42)
model.fit(X_train, y_train)
ここでは、ランダムフォレストモデルを作成し、学習させています。
- RandomForestClassifier:ランダムフォレストモデルを作成するためのクラスです。
- n_estimators=100: 決定木の数を100に設定しています。木の数が多いほどモデルの精度が上がる可能性がありますが、計算量も増加します。
- random_state=42: 乱数の種を設定することで、結果を再現可能にしています。
model.fit(X_train, y_train)は、モデルを訓練用の特徴量データX_train
とターゲットデータy_trainを使って学習させるためのメソッドです。fit
は「適合させる」という意味で、モデルがデータから規則を学ぶ処理を行います。
5. 予測と精度の確認
y_pred = model.predict(X_test)
print("予測精度:", accuracy_score(y_test, y_pred))
ここでは、学習済みのモデルを使ってテストデータに対する予測を行い、その精度を確認しています。
- model.predict(X_test): テスト用の特徴量データX_testを使って、モデルが予測を行います。このメソッドは、入力データに基づいてターゲットデータ(
y
)を予測します。 - y_pred: 予測結果が格納される変数です。
accuracy_score(y_test, y_pred)は、実際の答えy_test
と予測結果y_pred
を比較し、どれだけ正確に予測できたかを計算します。結果は「正解率」という形で表示され、例えば「0.8」であれば80%の正解率を意味します。
最後に、print
関数で予測精度を画面に表示しています。
Pythonの基礎文法事項
- 変数の作成: 変数は値を格納するための「名前付きの容器」のようなものです。例えば、
data
は辞書型のデータを格納しています。 - 関数呼び出し: train_test_splitや
fit
などは、関数またはメソッドを呼び出して実行しています。カッコ内に引数を指定することで、必要なデータや設定を渡します。 - メソッドとクラス: RandomForestClassifierはクラス(テンプレート)で、そこから作られた
model
はそのインスタンスです。クラスからインスタンスを作ることを「インスタンス化」と呼びます。
※インスタンスとは: クラス(テンプレート)を基に作られた実際の「もの」や「実体」を指します。たとえば、RandomForestClassifierは「ランダムフォレストモデルを作るための設計図(クラス)」ですが、その設計図を基に作成されたmodelが「実際に動くランダムフォレストモデル(インスタンス)」です。
まとめ
ランダムフォレストは、多数の決定木を組み合わせることで、高精度で安定した予測を実現する機械学習の手法です。
この手法では、データのランダム性を活用し、過剰適合を防ぎつつ多様な視点でデータを分析します。その結果、1本の決定木では得られない高い汎用性を持つモデルが構築可能となります。
システムトレードにおいては、ランダムフォレストを活用することで、過去の市場データから価格の上昇や下降を予測する能力を向上させることができます。また、この手法は感情に左右されない客観的な取引戦略を提供するため、トレードの効率性や正確性を向上させるツールとして有用です。
本記事では、ランダムフォレストの基本概念からPythonを使った具体的な実装例までを詳しく説明しました。これを通じて、データの準備からモデルの学習、そして予測精度の確認まで、一連の流れを理解できたはずです。今回の内容を参考に、まずは小さなデータセットを使って実際に試してみることをお勧めします。