はじめに
システムトレードとは、取引ルールをプログラム化し、自動で売買を行うトレード手法です。ディープラーニングを組み合わせることで、データから自動的に特徴を学び、より高度なトレード戦略を構築できます。
※ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路をモデルにした「ニューラルネットワーク」という仕組みを使い、コンピュータが膨大なデータを処理してパターンや特徴を学ぶ技術です。これにより、画像認識や音声認識、予測モデルなど多様な分野で活用されています。
※ディープラーニングについての詳細は下記の記事をご参照ください↓
その中で特に注目される技術が畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN)です。本記事では、畳み込みニューラルネットワークの基礎を機械学習初学者の方でも理解できるように1つ1つ丁寧に解説していきます。
畳み込みニューラルネットワークとは?
畳み込みニューラルネットワークは、もともと画像認識の分野で発展してきたディープラーニング技術の一種です。
この技術の特徴は、「データの一部分に注目して特徴を見つける」「パターンを自動で学習する」ことです。畳み込みニューラルネットワークを活用することで、例えば金融データからトレンドをつかんだり、異常を見つけたりすることが可能になります。
畳み込みニューラルネットワークの基本構造
CNNは次の3つの主要な部分(=層)で構成されています。
畳み込み層(Convolution Layer)
畳み込み層は、 データの一部分に注目して特徴を見つける層です。
カーネルについて
カーネルとは、データから特徴を抽出するための小さなフィルターのことです。画像の場合、カーネルは「縦3×横3」や「縦5×横5」のような小さなマス目の形をしており、このマス目がデータ全体をスライドしながら計算を行います。カーネルは形状やパターン(例: エッジや線)を探し出す役割を持っています。
具体例:
例えば、画像データでは、畳み込み層は「小さなフィルター(カーネル)」を使い、縦線や斜め線、丸い形などの基本的な形状を見つけます。これをフィルターが画像全体にスライドしながら適用していきます。
金融データの場合:
価格チャートを画像のように扱い、上昇トレンドや下降トレンドの形状を検出することができます。
ポイント:
畳み込み層は「どこに重要な特徴があるか」を自動で探してくれる層です。このため、手作業で特徴を指定する必要がなくなります。
プーリング層(Pooling Layer)
役割: プーリング層はデータを簡潔にまとめる(圧縮する)層です。
具体例:
たとえば、4×4のマスに以下のような数字があるとします:
1 3 2 1
4 6 5 0
2 8 9 3
7 2 1 5
「最大値プーリング」を使うと、2×2の小さな窓を移動させ、その中で最大値だけを取り出します。結果は以下のようになります
最大値プーリングとは?
最大値プーリングとは、データを縮小する際に、小さな領域内(例えば2×2の窓)の最大値を選び出して、その領域を代表する値とする方法です。これにより、重要な特徴を保持しつつデータ量を減らし、計算効率を向上させることができます。
6 5
8 9
これにより、元のデータを簡潔にまとめ、重要な情報を保持します。
金融データの場合:
価格のピークや異常値を簡潔にまとめることで、データの重要な部分を残しながら計算負荷を軽減します。
ポイント:
プーリング層は「データの中で最も重要な部分」を抽出し、効率的にデータを整理する役割を果たします。
全結合層(Fully Connected Layer)
具体例:
画像認識では、畳み込み層やプーリング層で抽出された特徴を組み合わせて、「これは猫か犬か」を判断します。
金融データの場合:
価格パターンに基づいて、「このタイミングで買うべきか、売るべきではないか」を判断します。
ポイント:
全結合層は、「これまでに学んだ情報を総合し、最終的な結論を導き出す」層です。
補足: そもそも「層」とは?
ここでいう「層」とは、ニューラルネットワークの中でデータを処理・変換する「ステップ」のことを意味します。それぞれの層が異なる役割を持ち、データを順番に処理していくことで、最終的な結果を出力します。層は「情報を流すパイプラインの1つのセクション」と考えるとわかりやすいでしょう。
金融データでの畳み込みニューラルネットワークの活用
畳み込みニューラルネットワークは金融データの分析においても活用されています。この技術を使えば、膨大なデータの中から重要なパターンを自動で発見し、取引の意思決定に役立てることが可能です。以下では、金融データにニューラルネットワークを適用する具体的な手法について説明します。
時系列データについて
時系列データとは、時間の経過に伴って変化するデータを指します。例えば、株価や為替レート、取引量のように、「時間」という軸を持つデータが該当します。
具体例としては、1時間ごとの為替レートの推移や、1日ごとの株価の終値などが挙げられます。このようなデータは、その時間の前後関係が非常に重要であり、分析することでトレンドやパターンを見つけることができます。
時系列データの画像化
時系列データをそのまま畳み込みニューラルネットワークで扱うことはできません。そこで、これを画像データとして表現する手法が広く用いられています。
一つの方法として、価格チャートに変換することが挙げられます。ローソク足や折れ線グラフを使い、価格の推移を視覚化します。この形式であれば、畳み込みニューラルネットワークが画像として読み取ることが可能になります。
また、ヒートマップを使った表現もあります。例えば、価格や取引量を色の濃淡で表現することで、視覚的にわかりやすい画像データに変換します。この場合、価格が高い部分を赤、低い部分を青で表示するなど、色で情報を伝える工夫がされています。
畳み込みニューラルネットワークを使うと、画像化されたデータから以下のような情報を自動で検出できます。
- トレンドの傾向(上昇トレンドや下降トレンド)
- 異常値や急激な値動きの検出
特徴抽出の自動化
畳み込みニューラルネットワークの重要な機能の一つに「特徴抽出」があります。特徴とは、データの中に含まれる重要な要素やパターンを指します。
従来の方法では、人間がデータを観察し、移動平均線の交差や上昇トレンドラインなど、取引ルールを手作業で作り上げていました。しかしニューラルネットワークでは、この特徴を自動的に見つけ出すことが可能です。
例えば、畳み込みニューラルネットワークが価格データの中から「ゴールデンクロス(移動平均線の短期線が長期線を上抜ける現象)」や「ヘッドアンドショルダー(特定の形状パターン)」といったサインを見つけ出すことができます。また、過去のトレードデータを学習することで、次の値動きを予測するための特徴を抽出することも可能です。
畳み込みニューラルネットワークでトレードモデルを構築する
次は、畳み込みニューラルネットワークを使った簡単なトレードモデルの例を紹介します。
ステップ1: データ準備
金融データを収集し、価格チャートを画像形式に変換します。
ステップ2: 畳み込みニューラルネットワークモデルの構築
Pythonのライブラリ(KerasやTensorFlow)を使って、CNNモデルを構築します。
畳み込みニューラルネットワークモデルのサンプルコード
# TensorFlowライブラリからモデルとレイヤーのクラスをインポート
from tensorflow.keras.models import Sequential # モデルの基礎構造を作るクラス
from tensorflow.keras.layers import Conv2D, MaxPooling2D, Flatten, Dense # 異なる種類のレイヤーをインポート
# モデルの定義開始
model = Sequential([ # Sequentialモデルは層を順番に積み上げる構造
Conv2D( # 畳み込み層を追加
32, # フィルター(特徴検出器)の数を32に設定
(3, 3), # フィルターのサイズ(縦3×横3の小さいマス目)
activation='relu', # 活性化関数としてReLU(負の値を0に変える)を使用
input_shape=(64, 64, 3) # 入力データの形状(縦64×横64の画像、RGBの3チャンネル)
),
MaxPooling2D( # プーリング層を追加
pool_size=(2, 2) # プーリングの窓サイズ(縦2×横2のマス目で縮小処理)
),
Flatten(), # 平坦化レイヤーを追加(データを1次元のリストに変換)
Dense( # 全結合層を追加(ニューロン間を全て接続する層)
128, # ニューロンの数を128に設定
activation='relu' # 活性化関数にReLUを使用
),
Dense( # 出力層を追加(結果を出力する層)
1, # 出力の数を1に設定(バイナリー分類:例えば「買う」か「買わない」)
activation='sigmoid' # 活性化関数にシグモイドを使用(出力を0~1の間にする)
)
])
# モデルのコンパイル
model.compile( # モデルの学習方法を定義
optimizer='adam', # 学習アルゴリズムとしてAdamを選択(効率的に学習を進める方法)
loss='binary_crossentropy', # 損失関数としてバイナリークロスエントロピーを使用(2値分類向け)
metrics=['accuracy'] # モデルの評価指標として「正確さ(accuracy)」を選択
)
サンプルコードの解説
ライブラリのインポート
# TensorFlowライブラリから必要なモジュールとクラスをインポートします
from tensorflow.keras.models import Sequential # モデルの構造を作るためのクラス
from tensorflow.keras.layers import Conv2D # 畳み込み層(特徴を抽出するための層)
from tensorflow.keras.layers import MaxPooling2D # プーリング層(データを圧縮する層)
from tensorflow.keras.layers import Flatten # 平坦化層(多次元データを1次元に変換)
from tensorflow.keras.layers import Dense # 全結合層(最終的な判断を行う層)
Sequential
モデルの基礎構造を作るクラスです。層を順番に積み上げるシンプルな構造を提供します。
Conv2D
畳み込み層を表すクラスです。フィルターを使ってデータから特徴を抽出します。
MaxPooling2D
プーリング層を表すクラスです。データを縮小して効率化する役割を持ちます。
Flatten
データを1次元のリストに変換するためのクラスです。次の全結合層に入力しやすくします。
Dense
全結合層を表すクラスです。ニューロン同士を完全に接続して学習を進めます。
モデルの構築
# Sequentialクラスを使ってモデルを作成します
model = Sequential([ # Sequentialモデルは層を順番に追加するシンプルな構造
# 畳み込み層を追加します
Conv2D( # Conv2Dは画像データの特徴を抽出する層
32, # フィルター(特徴を検出するための目のようなもの)の数
(3, 3), # フィルターのサイズ(縦3×横3の小さなマス目)
activation='relu', # ReLU活性化関数(負の値を0にして効率的に学習を進める)
input_shape=(64, 64, 3) # 入力データの形状(縦64×横64ピクセル、RGBの3チャンネル)
),
# プーリング層を追加します
MaxPooling2D( # プーリング層はデータを縮小して処理を効率化する役割
pool_size=(2, 2) # プーリング窓のサイズ(縦2×横2で縮小)
),
# 平坦化層を追加します
Flatten(), # Flattenは多次元データを1次元のリストに変換します
# 全結合層を追加します
Dense( # Denseはニューロンが全て接続された層
128, # ニューロンの数(特徴を学習する単位)
activation='relu' # ReLU活性化関数を使用
),
# 出力層を追加します
Dense( # 最終的な出力を行う層
1, # 出力の数(バイナリー分類用に1つの値を出力)
activation='sigmoid' # シグモイド活性化関数(出力を0~1に変換)
)
])
Conv2D(畳み込み層)
Conv2D(32, (3, 3), activation='relu', input_shape=(64, 64, 3))
関数名: Conv2D
- 役割: データに対してフィルターを適用し、局所的な特徴を抽出するための層を定義します。
引数の説明
32
- 役割: フィルター(特徴検出器)の数を指定します。この例では、32個のフィルターを使って32種類の特徴を抽出します。
(3, 3)
- activation=’relu’
- input_shape=(64, 64, 3)
MaxPooling2D(プーリング層)
MaxPooling2D(pool_size=(2, 2))
関数名: MaxPooling2D
- 役割: プーリング(データ縮小)の方法を指定する層を定義します。
引数の説明
- pool_size=(2, 2)
Flatten(平坦化)
Flatten()
関数名: Flatten
役割: 多次元データを1次元のリストに変換します。この変換により、次の全結合層がデータを扱いやすくなります。
※平坦化(Flatten)は、ニューラルネットワークの中で使用される処理の1つで、多次元のデータを1次元に変換することを指します。この処理は、畳み込み層やプーリング層の出力を、全結合層(Dense層)に渡すために行われます。
具体的な例
例えば、プーリング層の出力が次のような2次元のデータだったとします:
[ [6, 5],
[8, 9] ]
これを平坦化すると、次のような1次元のデータに変換されます:
[6, 5, 8, 9]
このようにデータを1列に並べることで、全結合層で効率よく処理できる形式になります。
※ニューラルネットワークの全結合層では、入力データを1次元形式で扱う必要があります。畳み込み層やプーリング層は多次元データを出力するため、それを平坦化して形式を揃えることで、次の層に正しくデータを渡すことができます。
Dense(全結合層)
最初の全結合層
Dense(128, activation='relu')
関数名: Dense
引数の説明
128
- activation=’relu’
- 役割: 活性化関数としてReLU関数を使用します。非線形性を導入し、データに多様なパターンを学習させます。
※活性化関数とは、ニューラルネットワークにおいて入力信号を処理し、出力信号を変換するための関数です。
- 役割: 活性化関数としてReLU関数を使用します。非線形性を導入し、データに多様なパターンを学習させます。
出力層
Dense(1, activation='sigmoid')
関数名: Dense
- 役割: 出力を行う層を定義します。
引数の説明
1
- activation=’sigmoid’
モデルのコンパイル
# モデルをコンパイルして学習の設定を行います
model.compile(
optimizer='adam', # 学習アルゴリズムとしてAdamを使用(効率的に学習を進める方法)
loss='binary_crossentropy', # 損失関数としてバイナリークロスエントロピーを使用(2値分類用)
metrics=['accuracy'] # モデルの評価指標として正確さ(accuracy)を指定
)
メソッド名: compile
- 役割: モデルの学習方法を設定します。どのアルゴリズムで学習を進めるか、損失をどう計算するか、どの指標で評価するかを指定します。
引数の説明
1. optimizer='adam'
- 役割: 学習アルゴリズムを指定します。この例ではアルゴリズムとしてAdamを使用します。
Adamとは?
Adam(Adaptive Moment Estimation)は、ニューラルネットワークの学習を効率的に進めるための最適化アルゴリズムです。勾配降下法をベースに、学習率をデータの更新状況に応じて動的に調整します。この仕組みで計算効率が良く、学習の収束が速いという特徴があります。
勾配降下法とは?
勾配降下法は、関数の最小値を見つけるための数学的な手法です。損失関数の値を最小化する方向(勾配)に従ってパラメータを調整し、徐々に正しい解に近づけていきます。
2. loss=’binary_crossentropy’
- 役割: 損失関数を指定します。この例ではバイナリークロスエントロピーを使用します。
損失関数とは?
損失関数は、モデルの予測と実際の正解データとの差を数値化するための関数です。損失が小さいほど、モデルが正確に学習できていることを示します。損失関数の値を最小化することが学習の目的となります。
※損失関数についての詳細は下記の記事をご参照ください。
二値分類とは?
二値分類は、データを2つのカテゴリ(例: 「Yes」か「No」)に分ける問題を指します。たとえば、「画像が犬か猫かを分類する」「この商品を買うか買わないかを判断する」といったタスクが二値分類に該当します。
バイナリークロスエントロピーとは?
バイナリークロスエントロピーは、二値分類問題で使われる損失関数の1つです。モデルの予測確率が正解ラベルにどれだけ近いかを評価し、損失を計算します。予測が正解に近いほど損失が小さくなります。
3. metrics=['accuracy']
- 役割: モデルの評価指標を指定します。この例では正確さ(accuracy)を使います。
正確さ(accuracy)は、全ての予測に対して、正しい予測の割合を示す指標です。予測が正解したデータの数を全データ数で割って計算します。
まとめ
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、データから重要な特徴を見つけ出し、それを基に判断を行う強力なツールです。この記事では、CNNの基本構造として「畳み込み層」「プーリング層」「平坦化層」「全結合層」の役割を学びました。それぞれが連携し、データを順番に処理することで、最終的な判断が可能になります。
学習では、損失関数を使ってモデルの間違いを測定し、Adamのような効率的なアルゴリズムで正しい答えに近づけていきます。この仕組みを理解すれば、画像認識や金融データ分析といった多くの分野で応用が可能です。
CNNは複雑そうに見えますが、仕組み自体はシンプルです。まずは基本を押さえ、実際にコードを書いて動かしてみることが、理解を深める最善の方法です。重要なのは、試行錯誤しながら使い方を学び、より実践的な活用方法を見つけることです。