複素数とは?
複素数とは、実数と虚数を組み合わせた形で表現される数です。実数(普通の数)だけでは解けない問題を解決するために、数学で新たに定義された概念です。複素数は次のような形で書きます:
z = a + b*i
ここでの各要素は次の意味を持ちます:
- a:実部(じつぶ)。普通の数(実数)の部分です。
- b:虚部(きょぶ)。虚数(あとで説明します)の係数(数式の前にかかる、掛け算をする為の数値)です。
- i:虚数単位。「i*i = -1」と定義されています。
これはつまり、「i を2乗すると -1 になる」という意味です。
普通の数(実数)ではこうならない理由
通常扱っている 実数では、どんな数を2乗しても「0以上」になります。たとえば:
- 2*2 = 4 (正の数を2乗すると正の数)
- (-3)*(-3) = 9 (負の数を2乗しても正の数)
このため、「x*x = -1 を満たす数」 は、実数の世界には存在しません。これが数学の問題として長い間、未解決だったわけです。
虚数単位 i を作った理由
この問題を解決するために、数学者たちは次のように考えました:
- 実数の世界に解決できない問題があるなら、新しい数を作ってしまおう!
- そこで登場したのが「i」という特殊な数です。
「i*i = -1」と定義することで、「負の数の平方根」という新しい概念が扱えるようになりました。
例:負の数の平方根を計算する
負の数の平方根が現れたとき、これを「i」を使って表現できます。たとえば:
- √(-1) = i
- √(-4) = √(4) * √(-1) = 2*i
- √(-9) = √(9) * √(-1) = 3*i
このように、i を導入すると、負の数の平方根が簡単に表現できるようになります。
なぜ「i*i = -1」と定義しているのか
この定義は少し不思議に感じるかもしれません。でも、これには理由があります。
- 実数の計算ルールと整合性を保つため
「i」という新しい数を導入しても、実数の計算ルール(加減乗除)を壊さないようにするために、この定義が選ばれました。 - 数学の幅を広げるため
実数では解けない問題を解決するために「i*i = -1」と定義しています。
複素数の具体例と解説
複素数は「実部」と「虚部」を持つ数のことです。以下にいくつかの具体例を挙げて、それぞれ詳しく解説します。
例1:z = 3 + 4*i
この複素数を分解してみましょう:
- 実部(Real part):3
複素数の中で「実際の数」の部分です。この場合、3が実部にあたります。 - 虚部(Imaginary part):4
「i」を伴う部分が虚部です。この場合、4*i の係数である 4 が虚部です。
つまり、z = 3 + 4*i は「実部が3、虚部が4の複素数」です。
例2:z = -2 – i
次に、この複素数を分解してみます:
- 実部:-2
負の数も実部として扱います。この場合、-2が実部です。 - 虚部:-1
-i は実際には -1*i と書けます。したがって虚部は -1 です。
この場合、z = -2 – i は「実部が-2、虚部が-1の複素数」です。
例3:実部だけの場合(z = 5)
この場合、複素数は z = 5 と書けますが、実際には次のように解釈できます:
- 実部:5
数の中に「i」が含まれていないので、全てが実部です。 - 虚部:0
虚数部分が存在しない場合は虚部が「0」と見なされます。
つまり、z = 5 は「実部が5、虚部が0の複素数」です。虚部がない場合でも、数学的にはこれも複素数の一種と見なされます。
例4:虚部だけの場合(z = 2*i)
この場合、複素数は次のように分解できます:
- 実部:0
実部が存在しない場合は、数が「0」と見なされます。 - 虚部:2
「2*i」の係数である 2 が虚部です。
つまり、z = 2*i は「実部が0、虚部が2の複素数」です。実部がない場合でも虚部だけで複素数を構成することができます。
例5:z = -3*i
この場合も z = 0 – 3*i と考えることができます:
- 実部:0
実部が含まれていないので「0」です。 - 虚部:-3
虚数部分が -3*i となるので、虚部は -3 です。
この複素数は「実部が0、虚部が-3」です。
補足説明:複素数の自由な形
複素数は「実部」と「虚部」のどちらか一方が存在しない場合もあります。その場合でも複素数として扱われるため、日常的な数や「i」を使った数全てを含む広い範囲の数だと理解すると良いでしょう。
複素数の基本的な意味
複素数とは、実数だけでは表現しきれないような状況を扱えるようにするために考えられた「拡張された数」のことです。特に、平方根の計算において負の数を扱う際に重要な役割を果たします。以下の例で説明します。
例:負の数の平方根を考える
次の、負の数の平方根を計算するとします: √(−4)√(-4)
通常の実数では、平方根は「2乗すると元の数に戻る値」を指します。しかし、負の数はどんな実数を2乗しても得られないため、「負の数の平方根は存在しない」 とされていました。
複素数を使った解決
複素数では、負の数の平方根を扱うために 虚数単位 i を導入します。この i は「i*i = -1」と定義されています。この定義を使えば、負の数の平方根を計算できるようになります。
計算例
負の平方根 −4-4 を計算すると:
ポイント
このように複素数を用いることで、実数では表現できなかった負の数の平方根を計算することが可能になります。具体的には、「実部(普通の数)」と「虚部(iを含む部分)」を組み合わせて新たな数を表現します。
虚数とは?
虚数は、実部がゼロの複素数を指します。複素数の中でも特に特徴的な形で表現されます。
虚数の形
虚数は次のような形をしています:
b * i
ここで:
虚数の例
いくつかの虚数の例を見てみましょう:
- 2*i
- 実部:0
- 虚部:2
- -5*i
- 実部:0
- 虚部:-5
- 0*i
- 実部:0
- 虚部:0(これは複素数0 にもなります)
虚数単位 i
虚数の本質は虚数単位 i にあります。この i を使うと、負の数の平方根が計算可能になります。
負の数の平方根の計算
例:√(-4) を計算する手順
- 負の数を分解します:
√(-4) = √(4) * √(-1) - 各部分を計算します:
√(4) = 2
√(-1) = i(虚数単位の定義から) - 結果をまとめます:
√(-4) = 2*i
複素数平面(アルガン図)
複素数は、単なる数値としてだけでなく、平面上の点やベクトルとしても表現することができます。この平面を「複素数平面」または「アルガン図」と呼びます。
複素数平面の構成
複素数平面は以下のように構成されます:
- 実部:横軸(実軸)に対応します。
例:z = 3 + 0*i の場合、実部は 3 で、点は横軸上の (3, 0) に対応します。 - 虚部:縦軸(虚軸)に対応します。
例:z = 0 + 4*i の場合、虚部は 4 で、点は縦軸上の (0, 4) に対応します。
具体例
- z = 3 + 4*i
- 実部:3
- 虚部:4
- 平面上では、点 (3, 4) に対応します。
- z = -2 – i
- 実部:-2
- 虚部:-1
- 平面上では、点 (-2, -1) に対応します。
- z = 5(実数の場合)
- 実部:5
- 虚部:0
- 平面上では、点 (5, 0) に対応します。
- z = 2*i(虚数の場合)
- 実部:0
- 虚部:2
- 平面上では、点 (0, 2) に対応します。
ベクトルとしての複素数
複素数は点としてだけでなく、原点からその点までを結ぶベクトルとしても表現できます。このベクトルは、複素数の大きさ(絶対値)や方向(偏角)を表します。
例:z = 3 + 4*i の場合
複素数平面は、複素数を視覚的に理解するツールであり、複素数の演算や応用において重要な役割を果たします。
複素数の演算
複素数の演算には「加法」「減法」「乗法」「除法」があります。それぞれの方法について詳しく説明します。
加法と減法
複素数の加法や減法は、実部同士と虚部同士を分けて計算します。
例:加法
(3 + 2*i) + (1 – i)
- 括弧内の実部同士を足します:3 + 1 = 4
- 次に虚部同士を足します:2 + (-1) = 1
結果:4 + i
計算過程:
(3 + 2*i) + (1 – i)
= (3 + 1) + (2 – 1)*i
(実部は 3 + 1、虚部は 2 – 1)
= 4 + i
例:減法
(3 + 2*i) – (1 – i)
- 括弧内の実部同士を引きます:3 – 1 = 2
- 次に虚部同士を引きます:2 – (-1) = 2 + 1 = 3
結果:2 + 3*i
計算過程:
(3 + 2*i) – (1 – i)
= (3 – 1) + (2 – (-1))i
(実部は 3 – 1、虚部は 2 – (-1) → 2 + 1)
= 2 + 3i
乗法
複素数の乗法では、展開を行い、i*i = -1 を利用して計算します。
例:
(1 + i)*(1 – i)
- (1 + i)*(1 – i) = 1*1 + 1*(-i) + i*1 + i*(-i)
- = 1 – i + i – i*i
- = 1 – (-1)
- = 1 + 1
- -(-1) を計算して +1 になります。
- = 2
- 最後に実数部分を足して答えは 2 です。
ポイント
- 分配法則に従って各項を丁寧に展開する。
- i*i = -1 を正しく適用することで、複素数の計算を進める。
除法
複素数の除法では、分母を実数化するために「共役」を用います。
共役とは
共役とは、複素数の虚部の符号を反転させたものです。この共役を分母と分子に掛けることで、分母を実数に変えられます。
例:
(1 + i) / (1 – i)
- 分母と分子に (1 + i) を掛けます。
(1 + i) / (1 – i) = ((1 + i)*(1 + i)) / ((1 – i)*(1 + i))- 分母と分子に分母の共役(1 + i) を掛けて計算を進めます。
- 分母を展開します。
((1 + i)*(1 + i)) / ((1 – i)*(1 + i))
= (1 + 2*i + i*i) / (1 – i*i)- 分配法則に従って、各項を展開します。分子は 1 + 2*i + i*i、分母は 1 – i*i です。
- 虚数単位 i*i = -1 を代入します。
= (1 + 2*i – 1) / (1 + 1)- i*i = -1 を適用して、分子の i*i を -1 に置き換えます。分母の i*i も同様です。
- 実部と虚部をまとめます。
= (0 + 2*i) / 2- 分子の実部 1 – 1 = 0、虚部 2*i が残ります。分母は 1 + 1 = 2 です。
- 分母を分子に分配します。
= 2*i / 2- 分母の 2 を分子全体に掛け算または割り算します。
- 最終結果を得ます。
= i
ポイント
共役複素数について
共役複素数は、虚部の符号を反転させた複素数を指します。記号として、通常 z̅(zの上にバーを付けた形)が使われます。
定義:
複素数 z = a + b*i の共役複素数は、次のように表されます:
z̅ = a – b*i
ここで、
- a は実部、
- b は虚部、
- i は虚数単位です。
例:
性質:
z * z̅ = (a + b*i) * (a – b*i)
= a*a – a*b*i + b*a*i – b*b*i*i
= a*a + b*b
= a*a + b*b (i*i = -1 を利用)
これにより、結果は実数a*a + b*b となります。これは、複素数の絶対値の2乗と一致します。
- 共役複素数を利用して分母を実数化
共役複素数は、分母を実数化するためにも使われます。たとえば、
(1 + i) / (1 – i) の計算では、分母に共役複素数 1 + i を掛けることで、分母を実数化します。
ポイントまとめ:
複素数の絶対値(大きさ)
複素数の絶対値とは、複素数が複素数平面上で原点からどれだけ離れているかを表す値です。これは実部と虚部を用いた式で計算できます。
定義
複素数z = a + b*i の絶対値 ∣z∣ は次の式で表されます:
∣z∣ = sqrt(a*a + b*b)
ここで、
- a は実部、
- b は虚部、
- sqrt は平方根を意味します。
計算例
例 1: z = 3 + 4*i
∣z∣ = sqrt(3*3 + 4*4)
∣z∣ = sqrt(9 + 16)
∣z∣ = sqrt(25)
∣z∣ = 5
この計算では、z = 3 + 4*i の絶対値は 5 です。
幾何的な意味
複素数の絶対値は、複素数平面上で点 (a, b) が原点 (0, 0) からどれだけ離れているかを示しています。この距離を求める公式は、三平方の定理に基づいています。
ポイント
- 絶対値は原点からの距離を表し、幾何的には「長さ」を意味します。
- 計算方法は三平方の定理と同じで、a*a + b*b の平方根を取ります。
- 実数のみの場合、絶対値は数値の絶対値と一致します(例: z = 5 の場合、∣z∣ = 5)。
まとめ
今回の記事では、複素数の基本から演算、幾何的な解釈までを詳しく解説しました。複素数は、実数だけでは解けない問題を扱える拡張された数であり、数学や物理、工学など幅広い分野で利用されています。今回解説した内容は以下の通りです:
- 複素数の基本構造:実部と虚部からなる数として、a + bi の形で表現されます。
- 虚数単位 i:i*i = -1 の性質を持つことで、負の数の平方根を可能にします。
- 複素数の演算:加法、減法、乗法、除法の各演算は実数と虚数を分けて計算し、特に除法では共役複素数を用いることで分母を実数化します。
- 共役複素数:虚部の符号を反転させた複素数で、演算や絶対値の計算に活用されます。
- 複素数の絶対値:複素数平面上での距離を表し、三平方の定理に基づいて計算されます。
複素数は数式だけでなく、平面上での幾何的な視点でも理解することで、直感的に捉えやすくなります。複素数を学ぶことで、これまで扱えなかった問題に挑戦できる新たな視点が得られます。
補足:三平方の定理について
三平方の定理は、直角三角形における辺の長さの関係を示す法則です。この定理を理解すると、複素数の絶対値を計算する際に役立ちます。
三平方の定理の内容
直角三角形では、次の関係が成り立ちます:
斜辺の長さの2乗 = 他の2辺の長さの2乗の和
式で表すとこうなります:
c*c = a*a + b*b
ここで、
- c は直角三角形の斜辺(直角を挟む一番長い辺)
- a, b は直角を挟む2つの辺(短い2辺)
この法則を使うと、直角三角形の任意の辺の長さを計算することができます。
三平方の定理の具体例
例えば、直角三角形の短い辺が3、もう1つの短い辺が4の場合、斜辺の長さを求めるには次のように計算します:
したがって、この三角形の斜辺の長さは5になります。
複素数との関係
複素数 z = a + bi の絶対値を計算するとき、三平方の定理をそのまま使います。
絶対値 |z| は、複素数平面上で原点から点 z までの距離であり、次の式で表されます:
|z| = √(aa + bb)
ここで a が実部、b が虚部に対応します。
三平方の定理は、数学の基本原則として複素数や他のさまざまな場面で応用される重要な定理です。