ATRとは?
ATR(Average True Range)は、株式やFXのトレーディングでよく使用されるインジケータの一つです。
ATRは、対象となる金融商品市場の価格変動の大きさ(=ボラティリティ)を測る方法です。
具体的には、過去の一定期間に渡る価格変動の平均値を計算し、それによって市場の動きの激しさを数値で示します。
ATRの数値が持つ意味
トレーダーにとって、ATRの値は重要な意味を持ちます。
ATRが大きければ大きいほど、価格の動きが大きく、潜在的な利益のチャンスだけでなく、リスクも高まることを意味するからです。
従って、ATRはトレーダーがリスク管理を行う際にも役立ちます。
例えば、ATRが高い場合は、より広いストップロスを設定することで、価格の急な動きによってポジションが早々に閉じられることを避けることができます。
逆に、ATRが低い場合は、市場が落ち着いていることを示しており、より狭いストップロスでも安全にトレードが可能です。
このように、ATRは市場の変動性を理解し、それをトレード戦略に組み込むための基本的なツールです。次のセクションでは、このATRがどのように計算され、具体的にどのように使用されるのかを解説していきます。
ATRの計算式
ATRを計算する前に、まず「TR(True Range=真の値幅)」を理解する必要があります。
TR(True Range=真の値幅)とは?
TRは、以下の3つの価格変動の中で最大のものを示します
これら3つの計算の最大値がその日のTRです。
そしてATRは、選択した期間(通常は14日)にわたるTRの平均です。
※「絶対差」について
「絶対差」とは、2つの数値の差(引き算の結果)の絶対値(その数の正の値)を指します
つまり、どちらの数が大きいかにかかわらず、常に正の数値として差を示します。例えば、5と3の絶対差は2、3と5の絶対差も2です。この概念は、値の大小関係を問わず、その差の「大きさ」だけに焦点を当てたい場合に使用されます。
<参照>
・絶対値
TRについて理解したところで具体的な計算例に入りたいと思います
ATRの具体的な計算例
ドル円相場でのATRの計算を例に取ります。以下の5日間のデータを考えましょう(すべて架空の数値です)
- 日1: 高値=110.50, 安値=110.00, 前日の終値=109.75
- 日2: 高値=110.60, 安値=110.10, 前日の終値=110.50
- 日3: 高値=111.00, 安値=110.40, 前日の終値=110.60
- 日4: 高値=111.50, 安値=111.00, 前日の終値=111.00
- 日5: 高値=112.00, 安値=111.40, 前日の終値=111.50
上記のデータを元にTRを算出します。
※「TR(True Range=真の値幅)とは?」セクションで解説したTRの定義を参照しながら見てみてください。
5日間のTRは以下のようになります。
1日目は「今日の高値と安値の差」が0.50、「今日の高値と前日の終値の絶対差」が0.75、「今日の安値と前日の終値の絶対差」が0.25です。これらの中で最も大きい値は0.75なので、TRは0.75になります。
2日目は「今日の高値と安値の差」が0.50、「今日の高値と前日の終値の絶対差」が0.10、「今日の安値と前日の終値の絶対差」が0.40です。これらの中で最も大きい値は0.50なので、TRは0.50になります。
3日目は「今日の高値と安値の差」が0.60、「今日の高値と前日の終値の絶対差」が0.40、「今日の安値と前日の終値の絶対差」が0.20です。これらの中で最も大きい値は0.60なので、TRは0.60になります。
4日目は「今日の高値と安値の差」が0.50、「今日の高値と前日の終値の絶対差」が0.50、「今日の安値と前日の終値の絶対差」が0.00です。これらの中で最も大きい値は0.50なので、TRは0.50になります。
5日目は「今日の高値と安値の差」が0.60、「今日の高値と前日の終値の絶対差」が0.50、「今日の安値と前日の終値の絶対差」が0.10です。これらの中で最も大きい値は0.60なので、TRは0.60になります。
これらのTRの平均を取ることで、5日間のATRを計算できます。
ATR = (0.75 + 0.50 + 0.60 + 0.50 + 0.60) / 5 = 2.95 / 5 = 0.59
したがって、この期間のドル円相場のATRは0.59となります。これは、この5日間でドル円相場が平均して0.59円の価格変動があったことを示しています。
ATRを用いたリスク管理 – 安全なトレードのために
ATR(Average True Range)を用いたリスク管理は、FXトレーディングにおいてよく用いられる手法です。ATRを活用することで、市場のボラティリティ、すなわち価格変動の度合いを理解し、それに応じた戦略を立てることができます。
ATRを活用したリスク管理手法の例として、以下のようなものが挙げられます。
リスク管理手法1:ATRを利用したストップロスの設定
まず、ATRを利用してストップロスレベルを設定することが挙げられます。
例えばボラティリティが小さく市場が平穏なときにはストップロスを狭めることで、不必要な損失を避けることができます。
逆に、市場が不安定でボラティリティが高い場合には、ストップロスを広げてポジションが早急に閉じられることなく、価格変動に耐えることができるようにします。
リスク管理手法2:ATRを利用したポジションのロット調整
例えば市場のボラティリティが高い場合、リスクを管理するためにポジションサイズを小さく保つことが賢明です。これにより、大きな価格変動があった場合でも、ポートフォリオ全体への影響を最小限に抑えることができます。
逆にボラティリティが低い場合、リスク管理手法1で解説した適切なストップロスレベルを設定することによって、ある程度ポジションサイズを多くしても資金を失うリスクを限定させる事ができます。
ATRを使う際の注意点
どのインジケータにも言える事ですが、ATRも当然万能のツールではありません。
適切に使用しなければ、トレードを誤った方向に導く可能性があります。このセクションではいくつかATRを使う際の注意点を挙げていこうと思います。
ATRを過信しない事
ATRは市場のボラティリティを示すものであり、価格の方向性やトレンドの強さを判断する指標として使うことはできません。ATRの値が大きいからといって、市場が特定の方向に動くとは限らず、価格が大きく動く可能性があることを示しているだけです。まずその前提を見誤らないようにしましょう。
ATR単独での使用は推奨しない
ATRは他のテクニカル指標やトレード戦略と組み合わせて使用することが推奨されます。例えば、移動平均線などのトレンドを示す指標、あるいはストキャスティクスやモメンタムなどのオシレーター系指標と併用することで、より効果的なリスク管理やエントリーポイントの決定が可能になります。
市場の流れを無視した、ATRのみの判断はしない
ATRはあくまで一定期間の市場の動きを平均化した値です。
したがって、経済指標の発表や重要なニュースイベントなど、市場に影響を与える特別な事情を考慮に入れなければ、その分析は不完全なものとなるでしょう。
ATRを使用する際は、これらの点を念頭に置きながら、他の分析ツールとの併用を心掛け、常に市場の状況に即した適切なトレード戦略を立てることが重要です
おまけ:ATRの選択期間が通常14日である理由
ATR(Average True Range)の選択期間が通常14日である理由は、その期間が市場の短期的な変動を捉えるのに十分でありながら、適度に長い期間であるためです。この期間は、ATRを開発したウェルズ・ワイルダーによって提案されました。彼は、14日間が多くの市場サイクルをカバーし、価格変動の平均的な範囲を効果的に表すのに適した期間であると考えました。
14日という期間は、トレーディングにおいて一般的な半月間隔を反映しており、多くのトレーダーが市場のボラティリティを分析する際に使用する一般的な時間枠です。この期間は、短すぎず長すぎず、市場の変動性を理解するのにちょうど良いバランスを提供します。また、14日間は市場の短期トレンドを捉えるのに十分なデータを提供しつつ、一過性の価格変動による影響を避けるのにも役立ちます。
しかし、ATRの期間はトレーダーのトレーディングスタイルや分析のニーズに応じて調整することが可能です。短期的なトレードを好むトレーダーはより短い期間を選択することがあり、長期的な視点を持つトレーダーはより長い期間を選択することがあります。
ATRについて:まとめ
今回はATRについて解説しました。
ATRは、市場のボラティリティを量る事ができる、非常に役立つツールです。
ATRを活用することで、適切なポジションサイズを決定や、ストップロスの位置を設定する際に大いに役立ちます。
また、市場が穏やかな時と荒れている時の区別がつき、それに応じた戦略を立てることができます。
FXトレーディングは予測不可能な要素が多いため、ATRのようなツールはトレーダーにとって必要不可欠です。ATRをうまく活用して、より賢明な投資判断を行っていきましょう。
今回は以上とさせて頂きます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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