【MQL5】Identity関数について

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Identity関数の働き・役割

Identity関数は、決まったサイズで「1」と「0」だけでできた単位行列主対角に1を持ち、他が0の行列)を作る関数です。この行列は、真ん中のななめの線にだけ「1」が入っていて、それ以外の部分は「0」になります。このななめの線のことを「主対角」といいます。たとえば、3行3列のIdentity行列は、次のような形になります。

1 0 0
0 1 0
0 0 1

このIdentity関数には、2つの異なる書式(オーバーロード関数)があります。

1つ目の書式は、「matrix::Identity(行の数, 列の数)」として、行と列のサイズを指定して新しい単位行列を作成するものです。このとき、行と列の数が同じでなくてもよいため、例えば3行5列の単位行列も作ることができます。

2つ目の書式は、「Identity()」とする方法で、すでにある行列を単位行列に変えるものです。これは新しい行列を作るのではなく、もとの行列の内容を単位行列の形に変更します。

Identity関数の引数について

Identity関数には、2つの異なる書式(オーバーロード関数)があり、それぞれで引数が異なります。

書式1: matrix::Identity(行数, 列数)

static matrix matrix::Identity(
  const ulong  rows,        // 行数
  const ulong  cols,        // 列数
  );

この書式では、新しい単位行列主対角線に1、他が0の行列)を指定した行数と列数に基づいて作成します。以下の引数が必要です。

  • 行数 (rows): 作成する行列の行の数を指定します。
  • 列数 (cols): 作成する行列の列の数を指定します。

この2つの引数で、必要なサイズの行列を生成することが可能です。行数と列数が異なる場合でも利用できます。

書式2: Identity()

void matrix::Identity();

この書式では、すでにある行列単位行列に変換します。特定の行数や列数を指定する引数はなく、呼び出すだけで、もとの行列単位行列の形にします。

Identity関数の戻り値について

Identity関数戻り値は、指定したサイズの単位行列主対角線に1、その他の要素が0の行列)です。

書式1: matrix::Identity(行数, 列数)

この書式を使用すると、新しい単位行列が返されます。例えば、行数と列数をそれぞれ3と指定した場合、次のような3行3列の単位行列が返されます。

1 0 0
0 1 0
0 0 1

もし行数と列数が異なる場合でも、そのサイズに応じて主対角線に1を配置し、残りの要素を0とした行列戻り値として返されます。

書式2: Identity()

この書式では、新しい行列は返されません。代わりに、もともと存在する行列単位行列に変換され、その行列単位行列の形を持つように内容が更新されます。この場合、戻り値はありません。

Identity関数を使ったサンプルコード

// matrixクラスの静的関数Identityを使用して、3行3列の単位行列を作成します
matrix identity = matrix::Identity(3, 3);

// 作成した単位行列をエキスパートログに表示します
Print("identity = \n", identity);

/*
  エキスパートログに表示される内容は以下の通りです:
  identity = 
  [[1,0,0]
   [0,1,0]
   [0,0,1]]
*/

// 3行5列の行列identity2を作成します(この時点では単位行列ではありません)
matrix identity2(3, 5);

// Identityメソッドを使用して、identity2を3行5列の単位行列に変換します
identity2.Identity();

// 変換した単位行列をエキスパートログに表示します
Print("identity2 = \n", identity2);

/*
  エキスパートログに表示される内容は以下の通りです:
  identity2 = 
  [[1,0,0,0,0]
   [0,1,0,0,0]
   [0,0,1,0,0]]
*/

サンプルコードの解説

このコードでは、MQL5matrixクラスにあるIdentity関数とIdentityメソッドを使って単位行列主対角線に1、他が0の行列)を作成し、エキスパートログに表示する方法を示しています。

基本的な関数や変数の解説

  1. matrix::Identity関数
    matrix::Identity関数は、matrixクラスの静的関数で、新しい単位行列主対角線に1、その他の要素が0の行列)を作成するために使用します。この関数は、行と列のサイズを指定して、そのサイズに応じた単位行列を作成します。ここでは、3行3列の単位行列が作成され、identityという変数代入されます。
  2. 変数identity
    identityはmatrix型の変数で、matrix::Identity関数が作成した単位行列を保持します。この単位行列は、3行3列の正方行列で、主対角線に「1」が配置され、その他が「0」の形をしています。
  3. matrix::Identityメソッド
    matrix::Identityメソッドは、既存の行列単位行列に変換するために使用します。このメソッドを呼び出すことで、行列の内容が主対角線に1を持つ単位行列の形に変更されます。このコードでは、3行5列の行列identity2が単位行列に変換されます。
  4. 変数identity2
    identity2は3行5列のmatrix変数として最初に作成されます。その後、Identityメソッドを使って単位行列に変換されます。3行5列の単位行列主対角線の3つまでが1で、残りが0の形となります。
  5. Print関数
    Print関数は、エキスパートログに情報を表示するために使用します。このコードでは、identityとidentity2の内容をエキスパートログに出力し、作成された単位行列を確認できます。

各コードの処理内容

まず、matrix::Identity関数を使用して、3行3列の単位行列を作成し、identity変数代入しています。この行列主対角線には「1」が、その他の要素には「0」が配置されます。次に、Print関数で「identity =」という文字列と共に、identityの内容をエキスパートログに出力しています。

その後、3行5列のmatrix変数identity2を作成し、続けてidentity2.Identity()を呼び出すことでidentity2の内容を単位行列に変換しています。この時、主対角線に3つの「1」が配置され、残りの要素には「0」が入ります。最後に、Print関数でidentity2の内容をエキスパートログに表示しています。

Pythonでの.identity関数を使ったサンプルコード

# numpyのidentity関数を使って、3行3列の単位行列を作成します
import numpy as np

# np.identity関数を使用して単位行列を生成し、identityという変数に代入します
identity = np.identity(3)

# 作成した単位行列をコンソールに表示します
print("identity =\n", identity)

"""
コンソールに表示される内容は以下の通りです:
identity =
[[1. 0. 0.]
 [0. 1. 0.]
 [0. 0. 1.]]
"""

サンプルコードの解説

このPythonコードでは、numpyライブラリのnp.Identity関数を使って単位行列主対角線に1、他が0の行列)を作成し、コンソールに表示する方法を示しています。

基本的な関数や変数の解説

  1. numpyライブラリ (np)
    numpyは、Pythonでの数値計算を支援するライブラリです。行列やベクトルなどの計算を効率よく行うことができるため、データ分析や機械学習の分野でよく使用されます。ここでは、numpyをnpという名前でインポートして使用しています。
  2. np.Identity関数
    np.Identity関数は、指定したサイズの単位行列を作成するための関数です。この関数行列のサイズ(ここでは3)を指定することで、3行3列の単位行列が作成され、identityという変数代入されます。
  3. 変数identity
    identityは、np.Identity関数が作成した3行3列の単位行列を保持する変数です。この行列主対角線には「1」が、その他の要素には「0」が入ります。np.Identity関数の結果として、小数点付きの値(1.0や0.0)で構成された行列が生成されます。
  4. Print関数
    Print関数は、コンソールに情報を表示するための関数です。このコードでは、”identity =”という文字列とともに、identityの内容をコンソールに出力し、作成された単位行列を確認しています。

各コードの処理内容

まず、numpyライブラリをnpという名前でインポートしています。次に、np.Identity関数を使って3行3列の単位行列を作成し、identityという変数代入します。この行列の主対角線には「1」が、他の要素には「0」が配置され、小数点以下の値も表示されます。最後に、print関数を使って、identityの内容をコンソールに表示しています。

Identity関数を使ってEAを作る際のアイディア

Identity関数は、主に行列計算を必要とするアルゴリズムや、特定の行列変換を行う場面で役立ちます。この関数を活用することで、取引戦略の最適化や複雑なデータ分析を含むエキスパートアドバイザーEA)の構築に役立つでしょう。以下はいくつかのアイディアです。

リスク管理の行列分析

複数のポジションを保持している場合、それぞれのリスクや相関を行列形式で管理することが考えられます。

Identity関数単位行列を生成し、ポジション間の独立性を仮定したリスク行列と比較することで、特定の資産やポジション間の相関関係を分析し、ポートフォリオの最適化に役立てることができます。

このような分析を通して、相関の高いポジションを確認し、リスクを低減する調整を加えるEAを構築することも可能です。

インジケータの重み付け最適化

複数のインジケータを使ってトレード判断を行う際、各インジケータがトレード判断に与える影響を調整するための「重み付け」が重要です。重みとは、各インジケータがトレード判断に与える影響度を表す数値で、値が大きいほど強い影響を示します。

たとえば、ボリンジャーバンドRSIなど、異なるインジケータを組み合わせる場合、各インジケータに適切な重みを与えることでトレード判断の精度を向上させることが期待できます。

Identity関数で生成した単位行列を基準にして、各インジケータの重みを行列で表現することができます。特定のインジケータの影響を強めるには、そのインジケータの位置に対する重みの数値を増やすことで、EAの判断に影響を与えやすくする調整が可能です。

状態遷移行列を用いたマーケットのシナリオ分析

取引の意思決定を行うために、マーケットの状態を複数のシナリオに分け、それぞれのシナリオにおける変動を行列形式で表現することが考えられます。

たとえば、トレンド相場やレンジ相場といった異なるシナリオの可能性と、それらの遷移確率を行列として設定し、予測を行うための基礎データとして活用します。

Identity関数を使用して単位行列を初期状態とし、過去のデータやマーケットの変動に応じて行列を更新していくことで、シナリオ分析を行い、マーケットの次の動きを予測するモデルを構築できます。

行列を利用したポジション管理ロジックの開発

トレードの際に複数の通貨ペアや資産を管理する場合、ポジションの管理や資産配分を行列で表現することが有効です。

Identity関数を活用して各ポジションを独立に保ちながら、資産の配分比率を適切にコントロールするEAを構築することが可能です。

たとえば、各資産のリスクや期待リターンを行列として整理し、単位行列と比較することで、ポートフォリオ内の偏りを確認し、リスク管理の最適化を図ります。こうした行列分析により、効率的な資産配分やポジション管理が実現します。

機械学習アルゴリズムへの活用

Identity関数を使って作成した単位行列は、機械学習やデータ分析で使用される基礎的な行列としても利用可能です。

たとえば、ニューラルネットワークを用いた予測アルゴリズムで、重みの初期化や正規化処理を行う際、この関数で生成した単位行列を基準として設定できます。これにより、安定した学習のスタートを切ることができ、予測精度の向上が期待できます。

このように、Identity関数を活用することで、行列演算を駆使した高度なトレードロジックや分析を取り入れたEAの構築に役立てることができます。

補足1:単位行列について

単位行列とは、特別な形をした行列で、数学やコンピュータプログラムでよく使われるものです。行列の中でも、「主対角線」という、左上から右下に向かってななめに続く線の上にだけ「1」が並び、それ以外の部分はすべて「0」になっています。

たとえば、3行3列の単位行列は次のようになります。

1 0 0
0 1 0
0 0 1

このように、行と列のインデックス(通し番号)が同じ場所に「1」があり、その他の部分は「0」になっています。4行4列の場合も同じように、主対角線上に「1」、他の位置に「0」が並ぶ形になります。

単位行列が使われる理由

単位行列は、計算の世界で「かけ算をしても変わらない数」という意味を持ちます。たとえば、数値「1」は、他の数をかけても元の数が変わらない特別な数です。同じように、行列における単位行列も、他の行列と「かける」ことで元の行列を変えない働きをします。そのため、計算や分析を行うときの「基準」として使われたり、行列の性質を調べるときに役立てたりします。

単位行列は、コンピュータプログラムで作業の基本になるものや、特定の基準として設定したい時にとても便利な道具です。たとえば、トレード判断の際に、インジケータの重みを単位行列に基づいて調整したり、ポジションの管理で基準値として使用するなど、様々な場面で役立ちます。

補足2:主対角について

主対角とは、行列の中で「左上から右下に向かってななめに続く位置」のことをいいます。行列のすべての要素には「行」と「列」があり、行と列の番号が同じ位置にあるものを「主対角要素」と呼びます。たとえば、3行3列の行列で考えると、[0,0]、[1,1]、[2,2]の位置にある数字が主対角にあたります。

以下は3行3列の例です。

主対角の要素(1 1 1がある位置)
1 0 0
0 1 0
0 0 1

このように、左上から右下に向かって並んでいるのが主対角です。

主対角の使われ方

主対角は、特に単位行列で重要な役割を果たします。単位行列では、この主対角上にだけ「1」が並び、それ以外はすべて「0」になっています。こうすることで、他の行列と「かける」演算を行った時に、元の行列を変えずに保つ特別な性質を持たせられるのです。この性質は、計算の基準となる行列を設定する時や、特定の効果を持たせた行列を作成する時に便利です。

主対角は、行列の特性を理解するうえで基本的な概念であり、行列を操作するときの中心的な役割を持ちます。

補足3:正方行列とは

正方行列とは、行と列の数が同じで、形が正方形になっている行列のことをいいます。たとえば、3行3列や4行4列など、行の数と列の数が一致する行列正方行列です。

以下は3行3列の正方行列の例です。

1 2 3
4 5 6
7 8 9

この行列では、行が3つ、列も3つなので正方行列と呼ばれます。同様に、2行2列、4行4列なども正方行列にあたります。

正方行列が特別な理由

正方行列は、数学やプログラムで特に扱いやすく、また特別な性質を持つためよく使われます。例えば、正方行列には主対角があり、単位行列正方行列の一種です。このように、正方行列は「左右対称」な構造を持っているので、計算や分析がシンプルになり、いろいろなアルゴリズムで重要な役割を果たします。

また、正方行列は他の正方行列と「かけ算」を行いやすく、その結果としてまた正方行列が得られるという特徴があります。この性質を利用して、複雑な数値計算や行列操作をスムーズに行うことができます。

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